Back Number of "NO IDEA" vol.1
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ふと思いついたので。
2年程前に、その当時「ヒッソリ」とオープンしていた”NO IDEA”のweb site
そして、そこに「ヒッソリ」と載せられていた、決して多くない数の文章
ここにまた載せることで、「なんか懐かしいな」って思ってくれる人が何人いるだろう
時をかける文章。
そんな軽やかなものでもありませんが。
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1:驢馬と犬

驢馬は家に居た。
ちょうど夕飯のために、筍のアク抜きをしていた。
今朝裏山に生えていた筍は、採るには少し早い気もしたが、衝動的に数本抜いてしまう。
「まったく。驢馬は我慢を知らない。」
すぐ後ろで、ほんのり色づき始めていたもみじがボヤいた。
犬は戸外で鳴いた。
驢馬は
「うるさい、黙ってくれ。タケが縮むぞ、タケが縮む。」
と台所から嘆いた。犬はなおも鳴き続けた。空の何処からか雨の雫が一滴、犬の鼻の頭に落ちた。犬は鳴くのをやめて、中庭からガラス戸を開けて入ってきた。
「大変なんだよ」
犬は安楽椅子に座り込んで、息を落ち着けてから、ゆっくりと言った。開け放たれたガラス戸からは、少し湿った風が流れ込んでくる。犬の鼻は、それでももう乾いていた。
驢馬は相変わらず台所に立ち、今度は鰹節で出汁をとっていた。鰹節は丁寧に漉され、溢れ出す黄金色の液体は、大きなガラスのボウルのなかで乱暴に波打った。犬はそのボウルを見つめながら、やはり落ち着かない様子で、驢馬の反応を待っていた。
犬は自らの平静を保つために、壁に掛かっていた踊り子が描かれた絵に視線を向けた。犬は突然、昔にどこかで読んだことのある詩を思い出した。『存在することの残酷さに向けて歩を進め 闇に巻かれて足並み乱せ 君は彼方で踊り狂う一組の、、』そこまで思い出したときに、机に置かれた二人分のプリンに気付いた。目の前には、スプーンを二つ持った驢馬が座っていた。
犬の話を聞いている間、驢馬は色とりどりの砂で出来た砂漠のことを考えていた。そこに住んでいる蠍は、太陽の日射しが砂の色を空中に飛散させて、月がそれを照らして星になっているんだと信じている。蠍は眠るとき、砂の中へ少し深く潜る。それは、眠っているあいだに、砂の色と一緒に空へ舞い上げられて、星になってしまわないようにだ。しかし、彼らは何十年か、何百年かごとに、空と地表はひっくり返って、空へ向かったものも、地表に残ったものも、またどちらか一所に集められるのだという共通感覚を持っていた。つまり、眠るときに深く潜るのは単なる慣習であって、彼らにとって砂も星もさして変わりはないのだ。ただ、その時がくれば星も、砂も、何もかもシャッフルされ、元に戻る。誰の了解も得ることなく、否応無しに全ては均一で、そこにある違いとは単に、上か下かの方向性のみであった。天と地を巡るその鈍重で堅牢なサイクルは、彼らの時間感覚を麻痺させ、身体感覚を摩耗させた。彼らはいつしか、自己防衛の為ではなく、その運命に抗うために自らの体の内に数滴の毒を持つようになった。
驢馬は言った。
「俺に一体何が出来る?」
犬は、口をパクパクさせながら少しの間考えてから、首をかしげながら
「正直、何か具体的な案があって来た訳じゃないんだ。これでも僕は2日間色々頭をひねってみたんだよ。少し落ち着かないと、そこにある事実さえ君に正確に伝えられないと思ってね。でもやっぱり僕一人じゃあ何も出来ない。君の助けが必要なんだ。」
驢馬は犬をじっと見つめた。そして、残っていたプリンの最後の一口をゆっくりと食べ終えてから、そばにあった受話器をとり、電話帳の17個目にある番号へ電話をかけた。
チックチックチック チックチックチック
驢馬は電話をとった相手に、早口で言った。
「山猫、こっちへ来てくれ。」
つづく
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